IT・ソフトウェア分野においても特許取得が可能です。本稿では、どのような技術が、IT・ソフトウェア分野の特許として取得されているかを紹介します。

1.IT・ソフトウェア分野における特許の例

(1) 画面デザインのソフトウェア処理

アップル社とサムスン社が世界中でスマートフォン技術を巡る特許訴訟を行っていました。

スマホの特許権をめぐっては、2011年以降、世界首位を争うサムスンと米アップルが各国で法廷闘争を繰り広げてきた。・・・
(http://www.asahi.com/articles/ASJ5T43MLJ5TUHBI00L.htmlから引用。
出典:朝日新聞デジタル)

この世界的特許紛争で問題となっている中心特許の一つは、アップル社保有の画面デザインについての特許(「バウンスバック特許」)であり、IT・ソフトウェア分野の特許です。この特許は、画面を指でスクロールしていって画面の最後に達した時にスクロールが急に止まるのではなく、あたかも何かにぶつかって跳ね返ったかのように動作するという画面動作を実現するソフトウェア処理が特許になったものです。
このような特許がどのように発明として定義(クレーム)されているかを見てみます。

特許第4743919号
タッチスクリーンディスプレイを有する装置でのコンピュータ実施方法において、
・・・・(中略)・・・・
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近においてオブジェクトがまだ検出されている間に前記電子ドキュメントを前記第1方向(筆者注:スクロール方向)に移動する間に前記電子ドキュメントの縁に到達するのに応答して、(中略)・・・を表示する、というステップと、
(筆者注:スクロールによってドキュメントの縁に到達したことを検出するステップが規定されている。)
前記タッチスクリーンディスプレイ上又はその付近にオブジェクトがもはやないことを検出するのに応答して、前記電子ドキュメントの縁を越えるエリアがもはや表示されなくなるまで前記電子ドキュメントを第2方向(第1方向とは逆の方向=バック)に徐々に移動して、前記電子ドキュメントの第1部分とは異なる第4部分を表示するステップと、
(筆者注:一旦表示されたドキュメントの縁からバック方向に表示が移動する。縁に到達して、逆方向に表示が移動するので、バウンスバックとなる。)

(2)ビジネスモデル特許

ビジネスモデル特許もIT・ソフトウェア分野における特許ということができます。2000年頃、「ビジネスモデル特許」という言葉が盛んにマスコミに取り上げられました。当初はビジネス手法一般が特許となるという誤解も多かったようです。しかし、現実に特許の対象となるのは、ビジネス手法一般ではなく、「ビジネスの方法をIT・ソフトウェアを利用してハードウェア資源により実現する発明」であり、その認識も現在では浸透しつつあるようです。有名なビジネスモデル特許として、Amazon社の「ワンクリック特許」という商品購入システムの特許等があります。この特許も、商品購入スキーム一般を保護するものではなく、住所や氏名、クレジットカード番号などをあらかじめ登録しておけば、画面上の専用ボタンをマウスで一度クリックするだけで商品の発注から支払い、配送までの手続きを完了できるソフトウェアの処理をハードで実現できる仕組みで特許化したものとなります。
このようなビジネスモデル特許によってビジネス上、優位性を構築できるのかという質問を受けることがあります。上記の例では、Amazon社がワンクリック特許を取得しているために、他のEC事業者は同様の入力の手間を省力化した簡易な発注システムを採用できません。そうだとすると、ユーザは同じECサイトならば、どちらを選ぶかは歴然とします。ユーザに訴求しうるサービスについて、他者の採用を防ぎ、もって、自社のシェアを上げる役割が、ビジネスモデル特許には期待されています。

※上記のとおり、Amazon社の特許では、「ワン・クリック」という表現はないものの、「シングル・アクション」という用語を用い、これを「特定のアイテムの注文を完成させるためにクライアント・システムに要求される唯一のアクションであり、その実行に続いて注文の確認を要求しない」と定義して、ワン・クリック概念を表現しています(※1)。

※1
詳細については以下のサイトも参照。
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/040100035/112600022/?P=2&d=1495766955484

2.特許になるための条件

以上のように、「バウンスバック特許」のようなスマートフォンのユーザインタフェースや、「ワンクリック特許」のような一見単純なビジネス上のアイデアに過ぎないと思われるようなものも、ソフトウェア処理をハードウェアにて実現化した技術として再構成することによって特許権に仕立てることができます。とは言っても、どんなアイデアでも特許になったのでは、特許権が乱立しビジネスが混乱してしまうため、特許になるための条件、いわゆる「特許要件」が課されています(特許要件については、次回以降説明します)。
この特許要件をクリアしつつ、IT・ソフトウェアビジネスに有効な形で特許化するには、一種の技が必要になります。弊所では、IT・ソフトウェア分野の特許化のサポートサービスも行っております。ご興味のある方は、是非お声がけください。