ふたたびナノ粒子製造プロセス技術を保有するX社です。特許出願の意義について、いわゆる独占的な効果以上に、ベンチャー企業としてはいろいろな効果をもたらすことが理解できました。そこで、いよいよ特許出願に踏み切ろうと思うのですが、社内からは「ノウハウ流出につながるのではないか」という懸念も聞こえています‥いわゆる、「特許出願するか、ノウハウのままにしておくか」という切り分けはどう考えればいいのでしょうか。

◆特許出願とノウハウの切り分け

新しい発明が生まれたとき、必ず特許出願するのが正しいやり方でしょうか。
予算があれば特許出願した方がよいと思われがちですが、実はそうではありません。
物事には必ずメリット、デメリットがありますが、発明についても特許出願すべき場合とそうではない場合が存在するのです。

ここでは、特許出願すべきでない場合について説明します。

◆なぜ特許出願すべきではないのか

特許出願をすると、出願の日から1年6ヵ月経過後に、審査の段階に関わらず、発明の内容がすべて公開されるルールになっています。
つまり、出願書類に自社のノウハウが記載されていると、それが公開されて、無償でノウハウを他社に教示することにもなりかねず、重大な企業損失となる可能性があります。
特許出願をするか否かを考える重要なポイントは、新しい発明が自社のノウハウであるか否かという点です。

◆自社のノウハウとは

それでは、「自社のノウハウ」とはどのようなものをいうのでしょうか。
ここでは、ノウハウを
① 侵害品を入手、分析等しても検出することができない技術情報であって、
② 同業他社が容易には創作できないであろう技術情報
と定義します。
上記①・②の要件に当てはまればノウハウになるので、原則として秘匿する、当てはまらなければノウハウではないので、特許出願を検討するということになります。なお、①にかかる侵害を検出できるかどうかを「検出可能性」と呼びます。
これをフローチャートに表すと次のようになります。

では、どのような発明が①特許権を侵害しているか否かを発見できる(検出可能性がある)発明なのでしょうか。
一般的には、物の発明は侵害の発見が容易であり、方法の発明は侵害の発見が難しいと言われています。
ただし、物の発明の中でも、BtoBで取引される中間原料や製造ラインに使われる装置のような物、1台当たり何千万もする工作機械のように高価な物は、実質的に侵害品の入手が難しく、検出可能性は低くなります。
一方、製造方法の発明と同様に侵害の発見が難しいのが、ソフトウェア特許、ビジネスモデル特許に代表されるアルゴリズム発明であり、このような分野の出願は出願書類の書き方に工夫をして侵害発見の容易性を上げることが必要です。

設例に戻ると、X社のコアは「ナノ粒子製造プロセス」であり、そのプロセスについて特許出願をすることは好ましくないということになりそうです。なぜかというと、ナノ粒子製造プロセスは、①その侵害品を入手、分析等してもそのプロセスで製造されているのかどうか検出することは難しく、②画期的で複雑な制御ノウハウが必要であるため、同業他社が容易に創作できないであろう技術情報にも該当するように感じます。そうだとすると、プロセス自体の特許出願をするよりも、このプロセスによって製造された特定用途を有する粒子(例:ナノ触媒など)が有する従来にない顕著な特性を測定し、そのようなアプリケーションを特許出願していくというのが妥当な出願戦略となるのではないでしょうか。


弊所では、ある発明があるときに、以下のようなコンサルティングを行っております。

  • 特許出願すべきか、ノウハウとして秘匿すべきか
  • 特許出願をするとしても検出可能性に鑑みどこまで出願するのか。
  • 特許出願をする際に、ノウハウを流出しない特許明細書の記載方法とは?
  • 検出可能性を極力上げるためにどのような特許明細書とするのか。
  • ノウハウとして秘匿すると決めた場合に有効な情報管理のあり方