第1  はじめに

今般、産業競争力強化法が改正されたことにより、バーチャルオンリー株主総会を開催することが可能となりました。「バーチャルオンリー株主総会」とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会(いわゆるリアル株主総会)を開催することなく、取締役や株主等がインターネット等の手段のみを用いて出席する株主総会をいい、物理的な株主総会が一切開催されないものをいいます。
以下では、その経緯やバーチャルオンリー株主総会開催時の注意点等について概説します。

第2  経緯及び意義

会社法298条1項1号が株主総会の招集に際して「株主総会の場所」を定めるよう求めていることから、解釈上、バーチャルオンリー株主総会の開催は難しいと解されていました。そのような中、新型コロナウイルス感染症の蔓延が一つの契機となって、上記の産業競争力強化法の改正につながりました。同法は、バーチャルオンリー株主総会を「場所の定めのない株主総会」(種類株主総会を含みます。)と規定しています(産業競争力強化法66条1項等)。
今回の法改正により、感染症対策のほか、遠隔地の株主における株主総会参加の機会の増加、また、株主総会運営コストの抑制等が期待できます。

第3  バーチャルオンリー株主総会を開催するための要件

バーチャルオンリー株主総会を開催するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります(産業競争力強化法66条1項)。
一つ目の要件は、金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社(上場会社)であることです。このため、上場会社以外の会社は、バーチャルオンリー株主総会を開催することができず、従前のリアル株主総会またはハイブリッド(参加・出席)型バーチャル株主総会を開催する必要があります。
二つ目の要件は、次の三つ目の要件の前提として、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として、産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令で定める要件(以下「省令要件」といいます。)に該当し、かつ、その該当性について経済産業大臣および法務大臣の確認を受けることです。省令要件には、通信の方法に係る障害に関する対策方針の策定などが含まれます。また、両大臣による確認は、場所の定めのない株主総会の開催の都度、この確認を受けるものではなく、有効期間はありません。
三つ目の要件は、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることです。これには、株主総会の特別決議による定款変更が必要となります(会社309条2項11号)。ただし、産業競争力強化法の一部改正に伴う経過措置として、2021年6月16日から2年間は、上記の確認を受けた上場会社は、この定款の定めがあるものとみなすことができます(附則3条1項)。このみなし規定が適用された後、実際に定款変更する場合には、改めて両大臣の確認を受ける必要はありません。ところで、みなし規定の適用に基づく場所の定めのない株主総会においては、上記の定款の定めを設ける定款変更の決議を行うことはできないため、注意が必要です(附則3条2項)。
最後の要件は、株主総会招集決定時にも省令要件に該当していることです。この該当性は、招集決定者が確認することになります。

第4  バーチャルオンリー株主総会開催時の実務対応

1. 招集の決定事項等

株主総会の招集の決定の際には、「株主総会の…場所」に代えて、「株主総会を場所の定めのない株主総会とする旨」を決定します(読替後の会社法298条1項、省令3条)。この決定においては、「場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法」等についても、決定する必要があります(省令3条)。
株主総会の招集の通知には、会社法上の記載または記録事項に加えて、「株主が場所の定めのない株主総会の議事における情報の送受信をするために必要な事項」(例えば、URLやID・パスワード)等についても、記載または記録する必要があります(読替後の会社法299条4項、省令4条)。

2. 通信途絶時の場合の備え

もし、バーチャルオンリー株主総会において通信が途絶してしまった場合、株主総会決議が不存在あるいは株主総会決議の取消しが問題となる可能性があります(会社法830条1項、831条)。もっとも、通信の方法にかかる障害により議事に著しい支障が生じる場合に議長が延期または続行を決定することができる旨の議長一任決議があるときは、実際にこのような支障が生じた場合に、別途、株主総会決議を経ることなく、議長の決定により延期又は続行が可能ですので(読替後の会社317条)、バーチャルオンリー株主総会を開催する場合においては、このような決議の取得は必須と考えられます。

3. 株主からの質問対応に関する注意点

バーチャルオンリー株主総会においては、会社が、会社にとって都合の悪い質問等を恣意的に排除する「チェリーピッキング」が生じる懸念があると言われています。会社としては、この懸念に対応するため、合理的な質問選別基準を事前に作成したり、その概要を株主総会招集通知に記載等しておくことや、株主総会終了後の適切な時期に、株主総会で取り上げなかった質問等について、それに対する回答と併せて会社のウェブサイト等で開示することが考えられます。

4. その他の検討事項

紙幅の関係上、詳細な説明は割愛しますが、上記のほかにも検討すべき事項があります。これにつきましては、上記で説明したものも含め、「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関するQ&A」(2021年6月16日経済産業省・法務省)(URL:https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/virtual-only-shareholders-meeting_qa.pdf)の中で比較的詳細に説明されているため、参考になるものと考えられます。

以上