第1 はじめに

今般、産業競争力強化法が改正されたことにより、バーチャルオンリー株主総会を開催することが可能となりました。しかし、バーチャルオンリー株主総会を開催することができるのは金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社(上場会社)に限られるため(産業競争力強化法66条1項)、このような株式の発行を行っていない多くのベンチャー企業は、バーチャルオンリー株主総会の開催ができません。
もっとも、新型コロナウイルス感染症の蔓延とともに各種ウェブ会議システムの普及が進んだ影響で、バーチャルオンリーではないにしても、リアル株主総会の開催の際、ウェブ会議システム等を併用した株主総会の開催を検討しているベンチャー企業もいらっしゃるかと思います。以下では、このような「ハイブリッド型バーチャル株主総会」を開催する際の注意点等について説明します。

第2  株主総会の開催方法のパターン

現状、株主総会の開催パターンとしては、①「リアル株主総会」、②リアル株主総会を開催する一方で、当該リアル株主総会の場に在所しない株主についても、インターネット等の手段を用いて遠隔地からこれに「参加」又は「出席」することを許容する「ハイブリッド型バーチャル株主総会」、及び、③リアル株主総会を開催しない「バーチャルオンリー株主総会」の3つがあるとされます。
このうち、②のハイブリッド「参加型」バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催場所に所在しない株主が株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができるものをいいます。これに対し、ハイブリッド「出席型」バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催場所に所在しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができるものをいい、「参加型」よりも注意すべき事項が多く存在します。

リアル株主総会

ハイブリッド型バーチャル株主総会

バーチャルオンリー
株主総会

参加型

出席型

「参加型」と「出席型」の具体的な違いとして、参加型の場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、リアル株主総会に「出席していない」ため、会社法上、株主総会に出席した株主により行うことが認められている質問(会社法314条)や動議(会社法304条等)を行うことができないことが挙げられます。また、この株主は、当日の決議に参加することもできません。

第3  ハイブリッド「参加型」バーチャル株主総会の注意点等

ハイブリッド「参加型」バーチャル株主総会を開催する際の主な注意点等は、次のとおりです。
まず、出席型と共通する事項として、招集通知等により、動画配信を行うウェブサイト等にアクセスするためのIDやパスワード等を事前に株主に通知する必要があります。
次に、上述のとおり、参加型の場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主は当日の決議に参加できないため、委任状等で代理権を授与する代理人による議決権行使を行うことが必要です(その他、書面や電磁的方法による事前の議決権行使も考えられます。)。これらについて、招集通知等で事前に株主に周知することが望ましいと考えられます。
最後に、これも上述のとおり、参加型の場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主は、会社法上、株主総会に出席した株主により行うことが認められている質問や動議を行うことができません。しかし、これらとは別のものとして、例えば、上記のような株主から質問等を受け付け、回答することも考えられるところです。

第4  ハイブリッド「出席型」バーチャル株主総会の注意点等

ハイブリッド「出席型」バーチャル株主総会を開催する場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主が、会社法上、認められている質問や動議、また議決権行使ができなかった場合などに、決議に取消事由があるとして訴えを提起されるリスクがあります(会社法831条)。出席型を開催する場合、このリスクを念頭に対応の準備を進める必要があります。
具体的に問題となりうるのは、サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合です。会社としては、①合理的なサイバーセキュリティ対策、②バーチャル出席を選択した場合に通信障害が生じうることの事前告知、及び、③参加型と同様に株主総会にアクセスするための環境や手順についての事前告知などの対応が必要となります。
次に、運営に際しての注意点として、①株主の本人確認をどのように行うか、②株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係、③株主からの質問・動議の取扱い、④議決権行使の在り方、及び、⑤招集通知の記載方法やお土産の取扱い等についても、事前に検討・整理しておく必要があります。ここでは、これらの詳細は割愛しますが、経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」に詳しく説明がされていますので、こちらを参考にしていただければと思います。

以上


「バーチャルオンリー株主総会」とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会(いわゆるリアル株主総会)を開催することなく、取締役や株主等がインターネット等の手段のみを用いて出席する株主総会をいい、物理的な株主総会が一切開催されないものをいいます。その詳細については、技術ベンチャー.COMの別コラムをご覧ください(https://www.gijutsu-venture.com/archives/1707)。
取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会をいいます。
ただし、会社の管理が及ばない株主側の問題に起因する不具合によって株主がバーチャル出席できない場合も考えられますが、交通機関の障害によって株主が総会会場に出席できないことと同様に、こうした事態は株主総会の決議の瑕疵とはならないとされます。
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf