第1 はじめに

令和元年会社法改正により、業務執行の社外取締役への委託に関する規定が新たに設けられました(改正法348条の2)。以下では、この規定が設けられた背景やその要件等について、ご説明します。
なお、以下では、指名委員会等設置会社の説明は割愛するほか、令和元年法律第70号による改正後の会社法を「改正法」と、また、同改正の影響がない会社法を単に「会社法」といいます。

第2  改正法の規定

改正法348条の2は、次のように規定しています。

(業務の執行の社外取締役への委託)
第348条の2 株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
2 指名委員会等設置会社と執行役との利益が相反する状況にあるとき、その他執行役が指名委員会等設置会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該指名委員会等設置会社は、その都度、取締役会の決議によって、当該指名委員会等設置会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
3 前二項の規定により委託された業務の執行は、第2条第15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しないものとする。ただし、社外取締役が業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役)の指揮命令により当該委託された業務を執行したときは、この限りでない。

第3  新たに規定が設けられた背景

会社法上、業務執行取締役でないことが社外取締役の要件とされています(会社法2条15号イ。「当該株式会社の業務を執行した」との文言。)。このため、社外取締役が業務を執行した場合には、社外性を失うと解釈されています。
しかし、例えば、マネジメント・バイアウトや親子会社間の取引において、社外取締役が業務執行者から独立した立場で、当該取引のための交渉等を行うことがあります。このような社外取締役の行為は、株式会社と業務執行者等との利益相反の問題を回避する観点から、会社法の趣旨にかなうと考えられます。それにもかかわらず、このような行為が業務執行と評価され、社外性を失うことになるとすると、社外取締役が本来期待されている役割を十分に果たすことができなくなるとの懸念があります。
このような懸念に対応するため、改正法では、業務執行の社外取締役への委託に関する規定を新たに設けました。これにより、株式会社は、一定の要件を満たす場合に、その業務執行を社外取締役に委託することが可能となり(改正法348条の2第1項・第2項)、社外取締役が当該委託に係る業務の執行をしたときであっても、社外取締役の要件を満たさないことにはならない旨が規定されました(同条3項本文)。

第4 要件

上記のような委託が認められるための要件とその説明は、次のとおりです(改正法348条の2第1項、3項但書)。
(1) 株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるとき。具体的には、上述のように、マネジメント・バイアウトや、親子会社間の取引などがこれに該当するとされます。
(2) その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって委託すること。「その都度」とあることから、包括的な事前承認は許されません。また、取締役会の決議等を要する理由は、社外取締役が誰の監督も受けずに継続的に業務を執行するという事態が生じないようにするためです。
(3) 社外取締役が業務執行取締役の指揮命令により委託された業務を執行するものではないこと。このような場合には、業務執行者からの独立性が疑われ、社外取締役の要件を定める会社法2条15号イの規定の趣旨に反するためです。この場合、社外性を失うことになる点には注意が必要です。

第5  効果

上記の各要件を充足する場合、「委託された業務の執行は、第2条第15号イに規定する株式会社の業務の執行に該当しない」ことになります(改正法348条の2第3項本文)。

以上