第1 はじめに

令和元年会社法改正により、一定の株式会社において社外取締役の設置が義務付けられました(改正法327条の2)。以下では、この規定が設けられた背景やその要件等について、ご説明します。
なお、令和元年法律第70号による改正後の会社法を「改正法」と、同改正前の会社法を「改正前会社法」と、そして、同改正の影響がない会社法を単に「会社法」といいます。

第2 改正法の規定

改正法327条の2は、次のように規定しています。

(社外取締役の設置義務)
第327条の2 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。

第3 新たに規定が設けられた背景

平成26年の会社法改正において、上場会社等(正確には以下の第4をご確認ください。)が社外取締役を置かない場合には、定時株主総会で社外取締役を置くことが相当でない理由を説明する必要がありました(改正前会社法327条の2、改正前会社法規則74条の2)。また、当該改正の際、「会社法の一部を改正する法律」(平成26年法律第90号)附則25条では、「政府は、…社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。」こととされていました。
そのような中、機関投資家や金融商品取引所等からは、コーポレート・ガバナンスを実効的に機能させ、日本の資本市場が信頼される環境を整備する観点から、上場会社等には、最低限の基本的な要件として、画一的に、社外取締役を置くことを義務付けるべきとの指摘がされていました。また、東京証券取引所の全上場会社における社外取締役の選任比率は、令和元年7月調査時点において、約98.4%となっていました
このような状況等を踏まえ、日本の資本市場が信頼される環境を整え、上場会社等については社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信するため、令和元年会社法改正により、上場会社等において社外取締役を置くことが義務付けられました(改正法327条の2)。

第4 要件

社外取締役を置くことが義務付けられる上場会社等とは、次のいずれにも該当する会社であり(改正法327条の2)、改正前会社法327条の2の「相当でない理由」の説明義務を負っていた会社の範囲と同一です。
(1) 監査役会設置会社(改正法2条10号)
(2) 公開会社(株式の譲渡制限がないこと。同条5号)
(3) 大会社(資本金が5億円以上又は負債総額200億円以上。同条6号)
(4) 有価証券報告書の提出義務があること(金融商品取引法24条1項)

上記の要件が定められた理由としては、次のとおりです。すなわち、株主数の少ない小規模な株式会社も含めて全ての監査役会設置会社に社外取締役を置くことを義務付けることは相当ではない一方で、有価証券報告書を提出しなければならない株式会社は、不特定多数の株主が存在し得るため、社外取締役による業務執行者に対する監督の必要性が特に高いと考えられること、また、そのような株式会社のうち、会社法上、監査役会の設置が強制されている株式会社(会社法328条1項)は、その規模から、社外取締役の人材確保に伴い生じるコストを負担することができると考えられたこと、です。

第5 違反の効果

改正法327条の2の違反がある場合、取締役の善管注意義務違反が問われる可能性があるほか、取締役等は100万円以下の過料に処せられることとなります(改正会社法976条19号の2)。
なお、上場会社等において、事故等により社外取締役が欠けることとなった場合でも、その選任手続を遅滞なく進め、合理的な期間内に社外取締役が選任されたときは、取締役会の決議は無効とはならないといわれています。しかし、改正法327条の2の趣旨に反し、遅滞なく社外取締役が選任されず、長期間にわたって社外取締役による監督がない状況でされた取締役会の決議は無効になりうるとされている点には注意が必要です。

以上


東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(令和元年8月1日)