ベンチャー企業は、今すぐ、自社製品・サービスの開発と並行して、知財戦略を検討すべきです。
知財戦略とは、「知的財産戦略」のことであり、「知財によってビジネスの競争力を確保・維持・強化する戦略」です。知財戦略により競合他社の安易な市場参入を抑制し、価格競争に陥らずにすみ、その結果、利益率をあげることが可能になります。

では、なぜ今すぐ知財戦略を検討すべきなのか、具体的なケースを例に考えてみましょう。

ベンチャー企業A社は、画期的な IoTデバイス「Z watch」を開発しました。今までにない優れた技術を用い、ユーザの目を引くカッコよくかつ使い易いプロダクトデザインを採用しています。量産設備を持たないA社は、大きな工場を持ち、IoTデバイスの量産に定評のあるB社に製造を委託することにより、短期間で販売にこぎつけることができました。この製品が市場に与えたインパクトは大きく、販売から1年間で50億円の売上を上げるに至りました。

しかし、その年の年末から、市場の様相は大きく変化しました。「Z watch」の人気に目をつけた他社が、市場に参入してきたのです。
まず、「Z watch」そのものではないものの、紛らわしい製品名をつけた、質の粗悪な模倣品が出回りました。大人気で入手困難になっていた「Z watch」を欲しがった消費者は、「Z watch」と間違えて購入してしまいます。模倣品は本物より使いにくく、壊れやすいため、購入者はガッカリしました。
また、「Z watch」そっくりのデザインを持った模倣品も出現しました。一見「Z watch」に見えるため、本物の「Z watch」を入手できなかった消費者は、模倣品でもカッコよさは同じと、これを購入してしまいます。
その後、大企業が、市場に出た「Z watch」を分解・解析することにより、「Z watch」に類似した機能を持ち、より安価な競合製品を発売するようになりました。機能の類似した、より安価な製品が増えたことにより、「Z watch」の売行きは落ちたため、A社は価格を下げざるをえなくなりました。ただ、「Z watch」には、分解しただけではわからないA社独自のノウハウが隠されており、それが「Z watch」と競合製品との差別化要因になっていると考え、まだA社は「Z watch」の商品価値は失われていないと考えていました。
さらに悪いことに、A社は、量産を請け負っていたB社から突然の契約解約を伝えられます。その直後、B社は「Z watch」より機能が優れ、デザインがカッコいいIoTデバイスを発売します。もともと「Z watch」の量産をしていたB社は、A社独自のノウハウも、「Z watch」の欠点も知りつくしていたため、さらに優れた製品を開発することができたのです。

A社は、B社をはじめとする競合他社を止める手立てはないかと、弁護士に相談をしたところ、知財と技術を守る契約についての説明を受けました。すなわち、新しい技術の保護には「特許」が、新しいデザインの保護には「意匠」が、製品名などのブランドの保護には「商標」があること、不正な競争行為の防止には「不正競争防止法」という法律があること、他社に技術を開示する際には、契約書に相応の規定を設ける必要があること、などです。
しかし、特許・意匠・商標は、事前の設定・登録が必要でした。特許・意匠の設定・登録については、それぞれ公知でない技術・デザインである必要があり、すでに「Z watch」を販売しているA社は、これらを設定・登録する資格を失っています。また、商標の登録には、類似した商標が先に登録されていないことが要件になっており、すでに他社により「Z watch」によく似た商標が登録されていたため、A社は商標も登録できません。
また、B社との製造委託契約は、B社が用意した契約書そのままで締結していたので、今回のB社の行為を咎めることができる規定は入っていませんでした。
A社に残された手段としては、不正競争防止法などに基づく訴訟が考えられます。しかし、「Z watch」を販売できず、収入源がなくなったA社に、B社のような大企業と長い訴訟を続ける体力が残っているでしょうか…

ここまできて、A社はやっと気付きました。
新しい製品・サービスが世の中に認められると、必ず模倣品・競合製品が出現します。これらから自社製品・サービスによる将来のビジネスを守るため、製品・サービスの開発段階から、特許・意匠・商標といった知財を取得しなければならなかったことに。

以上のように、ベンチャー企業にとって、早期の知財取得は重要です。そして、経営戦略、開発計画と連動して、どのような知財を、どのような優先順位で取得することにより、自社のビジネスを守ることができるか検討することが必要になります。これが、知財戦略です。

以上