本稿では,他社特許に関する特許紛争に巻き込まれないためのポイントをお話しします。

1.IT・ソフトウェア分野のベンチャー企業の特許紛争

近年では,ベンチャー企業の知財マインドも高まっています。専門家に依頼して特許権を取得しようとする動きも多くみられるようになりました。弊所でもベンチャー企業様から相談が増加傾向にあります。IT・ソフトウェア分野のベンチャー企業も例外ではありません。
近時では,IT分野に属する同業のベンチャー企業間で,特許侵害訴訟が提起された事案が注目されています。クラウド会計ソフトを提供するfreee社が自社の特許権を侵害されたとして,同業のマネーフォワード社に対し,同社が提供するMFクラウドの販売等の差止めを求めた事案です。

クラウド会計ソフトを提供するベンチャーのfreee(フリー,東京・品川)が同業のマネーフォワード(東京・港)に対し,特許権侵害を理由とした差し止め請求訴訟を東京地裁に提起したことが7日分かった。

(日本経済新聞電子版2016/12/8から引用,
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO10414420X01C16A2TJC000/)2016/12/8)

一般に,特許権侵害訴訟が認容されると,製造販売の中止や損害賠償を支払う義務が生じます(特許訴訟では高額の損害賠償となるケースも少なくありません)。また,特許権侵害訴訟は専門訴訟ですので,相当程度の弁護士費用が必要となります。さらに,他社の知的財産を侵害しているという事実は,社会的信用にも影響しますので,上場等に影響が出る可能性もございます。
したがって,特許訴訟には被告側として巻き込まれないほうが良いことは,言うまでもありません。

2.特許紛争に巻き込まれないようにするためには

では,どうすれば特許紛争に巻き込まれないように防衛できるのでしょうか。
特許紛争に巻き込まれないようするための防衛策としては,特許クリアランスがあります。特許クリアランスとは,自社ビジネスが他人の特許を侵害していないかの調査・評価のことです。
一般的な特許クリアランスでは,まず,①自社事業に用いられる自社技術を特定します。そして,②特定した自社技術に対し特許調査を実施します。この特許調査で抽出された特許権について,③精緻に特許と自社技術の対比を行い,危険特許を精緻に炙り出します。危険特許がなければ,一安心です。他方,危険特許が抽出された場合には,(a)先使用権の有無の確認,(b)無効資料調査,(c)設計変更,(d)ライセンス交渉,等を検討することになります。
この特許クリアランスは,①~③の全部を専門家に依頼することも可能ですが,①及び②は自社でも行うことができる場合があります。近時では,無料で使用できる特許検索のデータベース(「特許情報プラットフォーム(J-platPat)」)が充実しており,これを用いて①及び②を,自社で実施するケースもあるようです。ただし,③については特許侵害訴訟の知見等を要するので専門家による判断を仰いだほうがよいかもしれません。


(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)

特許クリアランスを実施することで,特許紛争に巻き込まれるリスクは格段に減りますので,ビジネスの方向性が固まった段階や相当程度売上が見込める段階等の節目において,特許クリアランスを実施することが好ましいといえます。
弊所でも,特許クリアランス業務は日常業務としてサービス提供しております。不明点等ありましたら,何なりとご相談いただければと思います。

3.特許紛争に巻き込まれないようにするためには(その2)

特許紛争に巻き込まれないようにするためには、もう一つ方法があります。それは、自ら同業他社が必ず実施するような基本的な特許(以下、「必須特許」といいます)を取得するという方法です。必須特許を取得することによってどうして特許紛争を回避できるかというと、仮に当社が相手方の特許を侵害する状況になったとしても、必須特許を取得していれば、相手方も当社の必須特許を侵害せざるを得ないという状況にもなるので、いわゆるバーターの議論によって、最終的にはクロスライセンスという形で折り合えるからです。
特許クリアランスの場合、継続的に相手方の特許をウオッチングする必要がありますが、必須特許取得によるリスクヘッジの場合は、必須特許さえ取得してしまえばリスクヘッジが完了するとので、より本質的な方法論とも言えるかもしれません。

以上