自社にとっての虎の子の発明を特許化すべきか。悩まれている方も多いかと思います。
特許出願には、弁理士費用、特許庁手数料で数十万、外国出願まで含めると翻訳料やら現地の弁理士費用やらで時には数百万円もの出費が必要になります。そんなに高額の費用をかけたところで、実際に特許権を行使して模倣品の販売を止めさせようと思っても、特許権侵害訴訟では原告の敗訴率が高いし、1、2件の特許権だけでは簡単に回避されてしまう、むしろ、特許出願をすることによって自社の発明が世界中に向けて公開されて外国の企業に真似されてしまうだけだ、最近はこんな意見が聞かれることも多くなってきました。

では、ベンチャーは資金面で余裕がないし特許出願しても費用倒れに終わるだけだから、発明はノウハウとして大事に隠しておこう、という考え方が正解なのでしょうか。
このような考え方が一概にダメだとは申しませんが、結論を出すのは、発明の独占以外の特許権取得のメリットを検討してからでも遅くはありません。以下に示す特許権取得のメリットは、技術系ベンチャーだけが享受できるものというわけではありませんが、特に技術系ベンチャーがその恩恵に預かれる可能性が大きいものです。

1.資金調達

技術系ベンチャーは、研究開発費用などIT系やサービス系ベンチャーと比べてより多くの資金を必要としますが、資金の出し手であるベンチャーキャピタルが貴社技術の関連分野に明るいとは限りません。むしろ理系出身のベンチャーキャピタリストはまだまだ少数です。CVC(事業会社系のベンチャーキャピタル)も増えてはいますが、多くはIT系企業の子会社であり、ハードウェア系の大企業がベンチャーキャピタルを子会社として持つというのは数えるほどです。

技術に興味を持って貰えるが、ゴーサインがなかなか出ない、そんな状況に陥ってはいないでしょうか。ベンチャーに資金を出すかどうかは、ヒト(チーム)、市場が重要であって、ビジネスモデルはその次とよく言われますが、技術系ベンチャーにとっては、技術が根幹であり、これを外すことはできません。しかし、資金の出し手にしてみれば、その技術の有用性を客観的に評価できない以上、なかなか資金提供に踏み切れないという事情があります。

特許権を持っているということは、資金調達時のアピールにつながります。逆に、ベンチャーキャピタルから、特許をとっておいてくれと要求されることも少なくありません。
もちろん、特許権をとっているということは、その発明が有用であることを保証するものではありません。しかし、特許権を取得できたということは、少なくとも特許庁という公的機関が、その発明を既存の発明と比較して、新規であり、簡単に思いつくものではない(進歩性があるといいます。)という判断を下したことになるのです。また、特許取得までの審査過程において、似たような技術分野の文献が引用され、その文献に記載された発明との違いを説明する必要が生じます。その過程の中で、先行技術に対する自社の発明の有利な点があぶりだされ、後々の自社技術のプレゼンの有用な資料になるということも期待できます。

2.PR

上記のとおり、特許というのはいわば公的機関のお墨付きですので、ベンチャーキャピタルに限らず、様々な方面に対するアピールになります。製品外装に特許番号を付すことで最終消費者に訴求したり、様々な場面でのプレゼンに特許証を載せることにより地味ですが、自社技術をアピールできます。

また、特許公報の公開により全世界に対して、自社の技術が特許されたことが公開されます。M&Aや共同研究の相手を探している企業は、特許公報を定期的にキーワード検索し、興味のある技術について特許が取得されていないかチェックしています。

3.信用力アップ

創業間もないベンチャーは、他社との取引実績がほとんどありませんので、製造委託先や材料の仕入れ先を探そうと思っても、なかなか信用してもらえないことがあります。それに対して、特許を取得しておくことで、確かな技術をもとに事業展開を図ろうとしているとして会社の信用力がアップすることが期待できます。

また、ベンチャーが、間接金融をすることはあまりないかと思いますが、特許権を担保にすることで信用力の補完を図ることができます。最近は、特許権を「見える化」して、特許権を企業価値評価にプラスした融資を活発にしようという動きがあります。
http://www.meti.go.jp/press/2015/05/20150520003/20150520003.html

4.交渉力アップ

既存の企業と共同研究をする場合に、特許権があるとないとでは交渉力に雲泥の差が出ます。共同研究相手企業が途中から勝手に単独で研究開発を進め、製品化をしようとしても、基礎となる発明の特許権を持っていれば止めることができますが、自社技術をノウハウとして保管しているだけですと、共同研究相手企業の独断による製品化を止めることはできません。

また、共同研究の成果をどちらの帰属にするかという場合、ノウハウだけでは、自社技術の範囲があいまいであり、共同研究成果と、もともと自社が提供した技術の区別がつかず、自社技術のはずが共同研究相手企業との共有特許にされたり、もっと酷いケースでは、自社技術まで含めて共同研究相手が特許出願してしまうということもありえます。

一方、特許権は発明が明確に文章化されますので、どこまでが自社が提供した技術で、どこからが共同研究の成果かの線引きが確かなものになり、共同研究相手との紛争予防や自社技術を共同研究相手にとられておしまい、ということを防ぐことができます。

5.Exitの可能性

最近は、ベンチャーのExitとして、IPO一辺倒ではなく、M&Aという選択肢が現実身を帯びてきています。海外での事例のように、ベンチャーが保有する特許権を目当てにM&Aをするということが近い将来日本でも行われるものと思われます。