当社(B社)は、NDA締結先であるA社に対してαという技術ノウハウを開示しました。そうしたところ、数ヶ月して、ノウハウαがA社子会社であるA’社のウエブサイトに掲載されていることを発見しました。この場合、ノウハウ侵害で情報を流出したA社、その情報を利用したA’社を訴えることは可能なのでしょうか。

◆ノウハウ管理の仕方(営業秘密による保護)

日本には「ノウハウ保護法」という名称の法律は存在しません。その代わりに、ノウハウを含めた営業秘密は「不正競争防止法」によって保護されるとされます。

ただし、不正競争防止法の保護は、ノウハウがきちんとB社内で管理されていた場合にのみ与えられます。不正競争防止法は全てのノウハウを保護対象としているわけではなく、そのようなノウハウが下記の要件を具備するような場合のみ、「営業秘密」と定義し、同法上の保護対象としているからです。そして、「営業秘密」が不正に漏洩・使用された場合には、一定の要件の下で、差止請求や損害賠償請求ができるようになります。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 有用な技術上また営業上の情報であること(有用性)
  3. 公然と知られていないもの(非公知性)

これらのうち、②の有用性は自社の技術開発の成果であれば通常は情報の有用性が認められることになり、③の要件も、ノウハウというからには公知ではないはずなので、ともにそれほど問題とはなりません。

いつも問題となるのは①の秘密管理性です。この要件に関しては、過去の裁判例でたびたび論じられております。
まず、重要なことは当該情報に接する者(従業員、取引先)が、当該情報が営業秘密であることを認識できることです。そのためには、典型的には「●●社Confidential」などの表示を情報に付することになるのですが、緩和傾向にある最近の例ですと、情報の性質や他の手法による認識のさせ方、企業規模などを勘案して必ずしもこれを要求するとはなっておりません。この点について、経済産業省が平成27年に全面改定した「営業秘密管理指針」では以下のように記載されております。

しかし、このような表示を行うことは情報管理の基本であり、社内で定めた一定の基準に沿ってこれを行うことを強く推奨します。

このほか、推奨されるのは以下のような管理態様です。

  • 当該情報にアクセスできる者を制限する。たとえば、開発情報であれば、開発担当者・その上司及び開発担当役員に限定するなど。
  • 当該情報が記録されたファイルなどの有体物の場合は、鍵のかかるキャビネット内に保管し、この鍵をきちんと管理すること
  • 当該情報が電子データなどの無体物の場合、これを格納したサーバのセキュリティおよびパスワードを入力しなければアクセスできないようにすること

設例に戻りますと、情報αが上記の態様に沿って適切に管理されている場合、情報漏洩にかかるA社に対して損害賠償請求を行ったり、A’社に対して情報の使用差止請求を行うことは、可能となる場合があります。


(参考)
営業秘密管理指針(平成27年度改訂)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/20150128hontai.pdf