簡単なようで難しい雛形の使い方

契約書には様々な種類があり、また世の中には様々な契約書の雛形が出回っています。しかし、このような契約書の雛形を安易に使用することは危険です。
以下に、契約書の雛形を使用した場合に陥りやすいケースを挙げます。

1 タイトルに惑わされた契約書

例えば、契約書の雛形のタイトルが「業務委託契約書」だったとしても、その中身は、請負契約または準委任契約と大きく2つに分けられ、それぞれ注意すべき点が異なります。他にも、「販売店契約書」と「代理店契約書」はよく混同されますが、法的には別の契約です。つまり、今回のビジネスに適したタイトルだと考えて選んだ雛形が、実は実態とまったくかけ離れた契約書である可能性があります。

2 立場を反映していない契約書

多くの契約は、二当事者間で交わされます。売買契約であれば、売主・買主、秘密保持契約であれば、情報開示者・受領者、業務委託契約であれば、委託者・受託者。自らがどちら側の立場に立つかによって、当然想定されるリスクは異なります。しかし、契約書の雛形は、自分が契約のどちら側の立場に立つかまで考慮されたものは多くありません。このような考察を経ることなく、そのまま雛形を使用すれば、時として自ら不利な条件を契約書に入れることになりえます。

3 書かれていない条項、書かれている条項の意味を理解していない契約書

契約書に書かれていない条項は、民法や商法といった法律に規定された原則が適用されることになります。例えば、損害賠償について契約書に書かれていなくとも、債務不履行による損害賠償については民法415条および416条の規定が適用されることになります。また、逆に契約書に債務不履行による損害賠償の規定が書かれていた場合、民法の原則を一方当事者にとって有利(反対当事者にとっては不利)になるように修正している可能性が高いといえます。つまり、雛形に損害賠償の規定が書かれているから一安心ではなく、どのような規定になっているかが問題なのです。当然のことながら、雛形ではなく相手方作成の契約書の場合は、より一層の注意が必要になります。

このようなケースは、一定程度の経験と注意により回避できる可能性はあります。しかし、仮にこれらを回避できたとしても、契約書の雛形に頼ることにはもっと大きな問題があります。
そもそも契約書とは、契約当事者の権利義務を明確にすることにより、紛争を未然に防ぐためのものです。つまり、契約書には、将来起こりうる紛争(リスク)を想像した上で、その対策を記載することが必要なのです。リスクの想像とその対策については、当事者間のビジネスの内容や立場によって個別具体的なものであり、一般的な雛形でカバーできないことが多いのです。したがって、当事者間のビジネスと、それに関連する法律の両方を理解した上で、想像力を働かせなければならないのです。

もっとも、これらの点を理解した上で、雛形を参考にすることは有用です。使い方を間違えないよう、お気をつけください。

以上