1 社員がなした発明の多くは職務発明となる

職務発明とは、要するに会社の従業者が職務上した発明のことをいうが、特許法の規定に従い、正確に説明すると、①従業者等がした発明であり、②使用者等の業務範囲に属し、③従業者等の現在又は過去の職務に属する発明のことをいう。
ここで、①「従業者等」は、取締役、公務員、契約社員、パートタイマーなどの非正社員の他、派遣社員も含まれると解されている。このように、①の範囲が広いことから、職務発明をなしうる主体は広いが、②「業務範囲」、③「職務」で絞りがかけられる。
②「業務範囲」と③「職務」は、会社の業務に属さない又は従業者の職務に属さない発明は、会社の開発投資により完成された発明ではなく、純粋に個人的になされた発明であるとして、職務発明から除外する役割を果たす。例えば、タクシー会社のドライバーとして勤務する従業者が、エンジンに関する発明をしたケースを考えてみると、タクシー会社にとってエンジンの開発は、業務に入らないだろうし(②をみたさない)、ドライバーにとっても、エンジンを開発することは、職務に入らないであろうから(③をみたさない)、職務発明にはたあたらない。
しかし、このようなケースは非常に稀であり、従業者がした発明は、殆どが職務発明に該当する。例えば、文具メーカーでボールペンの開発に携わっている技術者が、日常業務を行いながら、独断で、次世代ボールペンを開発したとしよう。この場合、技術者が自ら開発した次世代ボールペンで起業をしようとしても、この次世代ボールペンは、職務発明に該当する可能性が高いため、起業をすることはできないであろう。この技術者は、次世代ボールペンの開発をすることも、会社から期待されているであろうし、次世代ボールペンの開発にあたっては、会社の資金や設備を利用していると考えられることから、会社の貢献があると思われるからである。
このように、従業者がした発明については、殆どのケースで職務発明にあたると考えられる。例外的な取扱いとなるのは、業務委託先、開発委託先で行われた発明であろう。①「従業者等」について、委託先の従業員は委託元の「従業者等」ではないことから、委託元の職務発明とはならない(この場合、基本的に、委託先の職務発明となろう。)。
それでは、従業者がした職務発明は、どのように取り扱われるのだろう。

2 特許法上の原則的な職務発明の取扱い

特許法の原則によれば、発明は、発明者のものである。もう少し丁寧に説明すると、特許権は、発明をするだけでは、取得することができず、特許庁に特許出願をし、審査を受ける等の手続が必要である。そして、特許出願を行うことができるのは、「特許を受ける権利」を有する者だけであり、この特許を受ける権利が発展的に変化して特許権になる。特許法の原則によれば、特許を受ける権利を取得するのは、発明者である。
したがって、原則からは、従業者の発明であっても、特許を受ける権利は、従業者が取得することになり、会社が取得するのではない。特許法は、発明行為のような知的創作活動は、会社のように意思のない者には行うことができず、意思のある人間にしか行うことができないと考えているからである。
しかし、従業者が特許を受ける権利を取得することは、従業者が自己名義の特許権を取得できることになり、何かおかしいようにも思える。そもそも、会社が開発投資をして発明がなされている以上、会社がその利益を享受できなければ、開発投資という概念が成り立たない。
次回の「役員、社員等の職務発明への対処」では、会社が、職務発明の特許を受ける権利を取得するための職務発明制度の利用方法を説明する。