複数人で起業する場合、最初は良好であった人間関係が、その後に悪化してしまう可能性もゼロではありません。万が一、そうなった場合に備えて、創業時に、起業メンバー間で、「創業株主間契約」を締結しておいた方がよいかもしれません。

1.【事例】

あなたは、友人と2人で起業することにしました。会社の株式は仲良く50%ずつ持ちます。会社の経営は順調に推移しました。あなたの会社の技術に目を付けた投資家から、出資を受けることも決まりました。
ところが、そんなある日、会社の方針をめぐり、あなたと友人は大喧嘩となりました。友人は会社を辞めてライバル会社にうつると言います。
あなたは「会社を辞めるなら出資分のお金を払うから株をおいていけ」 と友人に言いました。しかし、友人は、
「馬鹿なことを言うな。今の株の価値はその何倍にもなっている。」
といって、株式の買取額として、法外な値段を要求してきました。友人は、まだかなりの割合の株式を保有しており、このまま保有され続けると、会社の運営に支障が生じる可能性があります…

2.創業株主間契約とは

(1)契約の概要

「創業株主間契約」とは、共同創業者数名で起業する場合に創業者間で締結される契約です。その内容の柱は、「もし途中で会社を辞める場合は、保有する株式の全部または一部を返還する」というものです。

(2)契約を締結する目的

創業株主間契約を締結する目的は、万が一、創業者間の関係が悪化したとしても、会社の意思決定ができなくなるといった最悪の事態を回避することにあります。

3.契約の内容

(1)株式の譲渡

創業株主間契約では、「創業者メンバー(=株主)が、会社の役員等の地位を失った場合には、その保有している株式を他の創業者メンバー(あるいは会社など、その他の第三者)に譲渡させる」ことが内容の柱となります。

この譲渡のパターンの一つに、保有している株式を全て譲渡(=返還)させるのではなく、会社に在籍した期間に応じて、譲渡(=返還)する株式の数を減らす(逆にいえば、役員等の地位を失った後に保有できる株式の数を在籍期間に応じて増加させていく)という方法があります(例えば、1年以内に辞めた場合は、100%の株式を返還しなければなりませんが、1年~2年の間に辞めた場合は、75%の株式を返還する、といったイメージです)。つまり、会社に在籍した期間が長いほど会社の発展に貢献したとみて、保持できる株式を増やすことでそれに報いるわけです。ただ、場合によっては、辞める創業者に必ず株式を保有されることとなり、これによる弊害が生じる可能性には注意する必要があります(例えば、【事例】のように喧嘩別れの場合でも、株式を保有され続けます)。

また、上記のような内容(=会社の在籍期間が延びるにつれ、役員等の地位を失った後に保有できる株式数を増加させる)は基本的に維持しつつ、辞めた後の持株比率を一定数以下にするよう設定することもできます(例えば、在籍期間にかかわらず、辞めた後も保持できる株式の上限を保有株式数の20%までとする、といったイメージです)。

(2)株式譲渡の対価

返還させる株式の譲渡価額は、例えば、「株式の取得価額」とすることが考えられます。
なお、譲渡価額を時価とすることも考えられますが、未上場企業の場合には、その価額の算定が難しいほか、この算定に費用や時間を要することも考慮しますと、あまり望ましい方法とは言えないかもしれません。

(3)注意点 ~税金など~

ア 税金

創業間株主契約では、贈与税や譲渡課税所得に注意する必要があります。すなわち、株式譲渡の対価がその取得価額であり、その譲渡時における株式の適正な時価がそれを上回っていた場合、①株式の譲受人が個人ですと、この譲受人に贈与税が発生します。
また、②株式の譲受人が法人ですと、譲渡人に譲渡所得課税が発生し、譲受人である法人に法人税が課税されます。

イ 締結の時期

当たり前のことですが、創業間株主契約はなるべく創業時の創業者間の関係が良好な時に締結しておくのが好ましいと言えます。というのも、関係が良好であれば契約の締結も比較的スムーズに進むと思いますが、時間が経つにつれ、(関係が悪化していないとしても、)株式価値の上昇などが起こり、色んな思惑が交錯して契約締結が難しくなる可能性があるからです。
また、例えば、投資家が株主として加わった場合、通常は、投資家との間で投資契約が締結されますが、創業間株主契約がこの投資契約の条項に抵触することも考えられ、創業間株主契約を締結するために投資家の承諾が必要になる可能性も出てきます。

以上