1 職務発明を会社のものとする方法

ポイント1では、職務発明であっても、原則は、従業員等の個人に帰属するが、これを会社のものとするための方法があることを説明した。
その方法とは、会社が勤務規則等において、予め、職務発明の特許を受ける権利は、会社のものとする旨を定めておくことである。個々の発明が完成する前から勤務規則等にその旨を定めておくことにより、従業者等がした職務発明の全てを会社のものとすることができるのである。
具体的な方法としては、従来からあった発明者原始取得制度(「原始取得」とは耳慣れない言葉であるが、要するに特許を受ける権利が発生時にこれを取得するする主体のことである。)を前提とする法人の予約承継制度と、平成27年法改正で導入された法人原始取得制度の2通りあるが、これから、職務発明制度を制定しようとする場合、後者の法人原始取得制度の方が、会社が安定的に特許を受ける権利の取得がし易い点でメリットがあるからお勧めである。
すなわち、発明者原始取得制度の場合、従業員が転職をする際に、転職前の会社でした発明の特許を受ける権利を、退職と共に、転職先の会社に譲渡したときは、特許法上、転職先の会社は、有効に特許を取得し得ることになる。転職前の会社の資金等でなした発明であるにもかかわらず、転職前の会社が安定的に特許権を取得できないという事態は、特許制度上、問題があることは明らかであるが、改正前の特許法には、限界があり、訴訟に至ったケースも存在する。ベンチャーの場合、人材の流動性が高いことから、会社としては、開発チームのキーパーソンが特許を受ける権利を会社に取得させずに、独立、転職をすることにより、事業継続が危険に晒される事態さえ想定されるため、問題は切実であろう。
一方、法人原始取得制度は、従業者がなした職務発明について、従業者が原始取得するのではなく、法人が原始取得することができる。したがって、発明者が、特許を受ける権利を会社に取得させずに退職することができなくなる点で、会社が安定的に特許を受ける権利を取得することができる。

2 職務発明制度の導入の方法

職務発明制度を導入する場合、就業規則、勤務規則等に、職務発明の条項を設けることや、独立した職務発明規程を作ることにより、対応することとなる。
職務発明制度の導入にあたり、最低限入れる必要がある条項が、上記の特許を受ける権利を法人原始取得とする条項である。例えば、以下のような条項となる。

従業者等が職務発明を行ったときは、その発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する。

職務発明に関する他の重要な条項として、相当の利益の条項がある。次回は、相当の利益の定めについて解説を行う。