1 「相当の利益」の定め

職務発明は、会社の資金により完成されるものであるが、従業者は、努力の末に完成させた発明の権利が会社に取得されてしまうのであれば、発明に対するモチベーションが湧かないであろう。そこで、特許法は、会社が原始取得等した場合は、従業者に対し、「相当の利益」を付与しなければならないと定めている。この「相当の利益」は、従業者へのインセンティブとして重要な役割を果たしている。
相当の利益は、金銭の支払いにより付与することが多いが、留学費用を負担すること等でもよい。そして、発明は、その内容毎に価値が大きく異なることから、金銭で支払うのであれば、いくらが「相当」か、価値の算定が難しい。従業者にとってみれば、発明の主観的な価値は大きいから対価を高く考えるであろうし、会社の立場からすれば、予算上の制約に鑑みると、対価の額をなるべく低く算定したいと考えるであろう。このように、いくらが「相当」かという場面で、会社と従業者の間で、意見の相違が生じることが予想される。
そこで、特許法は、職務発明規程等で、相当の利益の算定基準をあらかじめ策定しておけば、当該算定基準どおりに算定した金額が「相当」の利益だとしている。
したがって、職務発明規程等を制定するに際しては、相当の利益の算定基準をあらかじめ定めたおいた方がよい。

2 「相当の利益」の具体的な内容

一般的には、「相当の利益」は、特許出願時に支払われる「出願時報奨金」、特許権の設定登録時に支払われる「登録時報奨金」、特許発明の実施等の実績に応じて支払われる「実績報奨金」の三段階に分けて支払われる。これらの報奨金の世間的な相場は、出願時報奨金は平均9941円(最大10万円、最小1万円)、 登録時報奨金は平均2万3782円(最大30万円、最小1200円)であり、実績報奨金は、76.8%の企業に支払実績があるとされている(独立行政法人労働政策研究・研修機構平成18年7月7日付調査)。
したがって、職務発明規程に相当の利益の条項を設ける場合、「出願時報奨金」、「登録時報奨金」、「実績報奨金」の3つの定めを置いた上、「出願時報奨金」及び「登録時報奨金」については、相場を目安とした具体的な金額を定めることが考えられる。一方、「実績報奨金」について、大企業の場合、詳細な算定基準を策定することが多いが、ベンチャーの場合、別途協議するや、実績に応じて定めるといった抽象的な規定を定めることが多いと思われる。
以上は、「相当の利益」についての一般的な内容を定めることを前提に説明をしたが、本来の趣旨からすると、発明者のインセンティブを喚起することにその意義があることからすると、技術系ベンチャーの場合、少人数で短期間に開発を行うことが多いと考えられることから、技術者のモチベーションが、製品開発に大きく影響することが考えられる。したがって、一般的な内容にとどまらず、実績報償の内容により、モチベーションを喚起するなどの対応も可能であると考えられる。例えば、ストックオプションは付与できない場合、相当の利益で、従業員のモチベーションを喚起することも可能である。
こういった意味で、大企業よりも、ベンチャーの方が、相当の利益を付与することの意義が大きいと考えることができる。