安易に「共有」としてはいけません

技術系ベンチャー企業の法律相談においてよくご相談頂く契約類型のひとつが、共同研究開発契約です。技術の発展とともに、ひとつの製品に求められる技術は複雑かつ高度化し、技術革新のスピードも早いことから、適したパートナーと協力して短時間で製品開発を進めることが、技術系ベンチャー企業に求められているためです。そこで、ここでは、共同研究開発契約の中で気をつけなければならない重要な要素をご紹介します。

1 対象の特定

何をどのように共同開発するのか、当事者間で共通認識にしておくことが重要です。両当事者が目指すところがズレていると、共同研究開発は有用な結果を生みません。また、共同研究開発では、成果の帰属や競業禁止義務について規定することが通常ですが、共同研究開発の対象が不明確では、これらの範囲についても不明確になり、紛争の原因になります。なるべく開発対象を具体的、詳細に文言にしておく必要があります。ただし、共同開発の過程で開発対象が拡張、変更することもありますので、これを考慮に入れた幅は必要です。

2 分担範囲の特定

一口に共同研究開発といっても、当事者の役割分担は様々です。一方当事者は金銭または人材のみ提供し、もう一方の当事者のみが開発をするケースもあれば、技術、機能、フェーズによって切り分けて双方で開発を分担するケースもあります。なるべく具体化し、どちらが担当するか不明確な箇所を残すべきではありません。

3 共同研究開発の実施の仕方

共同研究開発の進め方についての規定です。どちらがどのような情報を開示し、その後一方当事者がどのような研究開発を進め、いつ、どのような形で報告し、成果を共有するか、ミーティングの設定時期はどうするか、などといったものが考えられます。とくに期限と報告について定めることは、共同研究開発契約の終了を明確にするために必要です。

4 バックグランド情報の扱いについて

当事者が契約締結時に保有している情報を「バックグランド情報」といいます。この範囲を明確にし、他社に開示したくない情報まで開示しなくてもよいように規定する必要があります。また、バックグラウンド情報については、秘密保持義務、出願禁止義務、分析禁止義務も規定すべきです。
契約とは直接関係はありませんが、バックグランド情報は、契約締結時に保有していたことを立証できるように保全をしてから契約締結を行う必要があります。これができていないと、本来当社が自由に開示、使用できるはずのバックグランド情報が、研究開発情報の成果情報となってしまい、契約上の制約を受けてしまうことにもなりかねません。

5 共同研究開発の成果の取扱い

もっとも重要なのは、やはり成果の取扱いです。この成果情報については、バックグランド情報との対比で、フォアグランド情報と呼ぶこともあります。複数当事者により共同研究開発されたフォアグランド情報であるからといって、安易に「共有」としてはいけません。成果について特許権を取得する場合、共有の特許権については、別段の同意がない場合、共有者自身は自由に実施可能ですが、共有持分の譲渡、実施許諾(ライセンス)等については、他の共有者全員の同意を得る必要があるからです。そうなると、単独の特許権に比べて処分の自由度が相当狭まります。さらに、海外の特許権の場合は、国によって共有の扱いが異なりますので、注意が必要です。
フォアグランド情報の取扱いについては、共同開発の役割分担から考えて、どちらがより発明等の創作をなす可能性が高いか、またその場合の寄与はどの程度になりうるか、海外での特許権を取得予定か、将来他社にライセンスする可能性があるか等について考慮する必要があります。

共同研究開発契約の詳細や、その他技術系ベンチャー企業にとって重要な契約については、『技術法務のススメ』をご参照ください。